ドール用の着物だからと決して侮ることなかれ。
人間用の着物とまったく遜色ない造りをしたものを実際目にするドール界です。
襦袢や帯に加えて帯まわりの小物までもが利用でき,様々な色や柄をしたものがあります。
人によっては,ドールがきっかけで着物を初めて着付けることになるかもしれません。
ここでは「ドール用着物の基礎知識」をまとめた後,実際の着付けの様子を詳しくみていくことにしましょう!
ドール用着物の種類について
ドール用の着物は,人間用のものの縮尺だけをドール用に変えたものが究極形です。
もちろん,手軽さや値段の安さを優先してパーツや素材を簡略化することもありますが,すべてを本物に近づけることが理想であることを認めた上での苦渋の決断だと言えるでしょう。
もっとも,最近はミニスカートのものやフリルが付いた物など,アレンジして可愛さを優先にしたものが登場してきていますが,基本を押さえた上でのアレンジですから,ここでまとめた着物の知識が無駄になることはありません(当然ながら,両者に優劣はありません)。
さて,ドール用着物の種類ですが,袖の長さによって大きく2つに分けて考えましょう↓
ドールの振袖
通常サイズ:中~大振袖に相当。ふくらはぎ~くるぶしあたりにまで袖が来る。腰上げの他,裾を引きずるものもあり,後者は外出用にならない。
短めサイズ:小振袖に相当。袖の長さは膝あたりに来る。カジュアル服として扱われ,下に袴を併せることも多い。
なお,年中着られる裏地の付いた着物には「袷(あわせ)」という名前が付いていますが,裏地のない単衣は春~秋に着ます。
もっとも,夏は浴衣に取って代わられることも多いため,単衣のものの使用頻度は袷に比べると低いです。
続いて帯部分に目を向けてみましょう!
こちらは背中部分の形で長いもの(だらり帯など)と短いもの(羽根・文庫・片流しなど)に分けることができる他,帯まわりの小物として以下のようなものが存在します↓
帯まわりの小物
帯締め:帯が崩れないように締める紐。ファッション用途にも使われる。
帯揚げ:ドール用は帯枕を包む用途には使われず,印象を変えるためのもの。
腰紐や伊達締め:服の着崩れを防ぐもの。綿以外にゴム製のものも多い。紐の数は着物に2本,長襦袢に1本は使う。
帯まわりに関してはドール用のものと人間用のものとで違いが生じやすいところだと思います。
帯板や帯枕がないこともありますが,1番の違いはドール用の帯の形はあらかじめ決まっていることがほとんどなところでしょう。
浴衣のものならまだしも,着物用の平坦な帯を一から折って成型するようなことはありません。
続いて着物の下に着る襦袢ですが,半襦袢と長襦袢がある他,さらにその下に着られる肌襦袢もあります↓
襦袢の種類
長襦袢:着物の袖から見えるもので,サイズは振袖より少し小さめ。
半襦袢:小振袖に使用し,裾除けも加えた二部式襦袢もある。
肌襦袢:ドール用のものは色移り防止として使われる。
襦袢は洗濯技術の乏しい時代に,着物を汚さないための配慮だったわけですから,汗をかかないドールには不要と思われるかもしれません。
とはいえ,着物の下からのぞく半衿(首元に見える白い衿部分で,和服の「衿」は洋服で言うところの「襟」のことで読み方も同じ)や袖から覗く長襦袢がファッション要素とされているため,見た目的には重要です。
そう考えると,着物自体に装飾として縫い付けてしまう行為はドール用着物のスタンダードだと見なせるかもしれません。
とはいえ,先の帯諸々も含め,縫い付けられたものでは色や素材を変えて楽しむことができませんし,縫い付けられたものをスナップで止めた場合と実際に縛って着付けたものとでは,着付けから得られる学びも減ってしまうというものです。
なお,ここまでに紹介してきたものの素材としては,着物を中心に正絹か綿がありますが,襦袢や浴衣や帯まわりの小物に別素材が使われていることもあります↓
着物関連の素材
正絹:絹に「正」が加わると本物の意味になり,天然の絹糸そのものを指す。
綿:絹よりも安価で扱いやすい。高級感や手触りで劣る。
その他:ポリエステルや麻,レーヨン(化繊)など。ゴム製のものは扱いやすい。
正絹には生糸と紬糸の違いもありますが,ドール用の着物は人間用の着物をリユースしている場合も多く,元となった着物についての情報を載せているお店もあるでしょう。
なお,ドール用の着物は場所をあまりとらないので,保管は人間用の桐ダンスに入れるか防湿庫に入れてしまうのも一案です。
もしも汚れた時は人間用の衣装用ブラシできれいにしてください↓
それでは以下で,実際のドールに着物を着せつけていきましょう!
着付けの順番と注意点
ドールが対象になっていても,着せ方は人間のときと同じです。
大体は以下4つの手順を経ることになります↓
- 襦袢を着せる
- 着物を着せる
- 帯を締める
- 小物で着飾る
詳しくは次章からドールを使ってみていくことにして,ここでは次章以降で触れない事柄を中心にまとめることにしましょう。
ドール用なので外に柄が見えない肌襦袢や下着は省略し,長襦袢から着せることが多いように思います。
着物の下ではあるもののシルエットに影響してくるため,ここで布や包帯などを使って胴体を太らせることもあることを覚えておきましょう。
衿の合わせと後衿の抜き方の2点に注意が必要で,特に後者に関しては礼装か普段着か,年齢や体型がどうかによって抜き方が変わってくるとも言われるくらい奥深いものです。
着丈としてはこの上に着る着物がくるぶしくらいの丈になるので,それよりかは短くなります。
続いて着物を着せますが,人間用のものと異なり,指が何本入るかを基に調節できたり補助となるコーリンベルトがあったりするわけでもありません。
なので,ドールの着付けで注意すべき点としては以下のようなものに絞られます↓
- おはしょりがきれいか
- シワはないか
- 襦袢の見た目は良いか
- 衣紋の抜けはあるか
- 中心線がずれていないか
着物が着付けられたら帯を締めましょう!
ドール用はマジックテープやスナップになっているはずなので簡単です。
とはいえ,おはしょりや帯揚げ,帯締めの見え方に気を配ることは忘れないでください。
後は必要に応じて小物で着飾りますが,どのような和小物が存在するかを以下の記事でまとめているので今回は省略します↓
ドールに襦袢を着せる方法
一言でいうと,長襦袢を羽織らせて衣紋を抜いたら終わりです。
ところで,和服の衿というのは,洋服の襟と異なりだいぶ位置が下にまで来る点が大きく異なりますね。
補正が必要だと感じた場合は,長襦袢の下に施しましょう(「着物用補正パッド」などという商品名でボークスが販売していたこともあります)。
「衣紋を抜く」と聞くと難しそうに感じますが,ドールの衿後ろを引っ張って空間を作ればOKです。
このアイディアについて,どこかで知識として仕入れなければこの作業は決して行わないでしょうから,着付けにこだわったからこその成果だとも言えますね。
女子は向かって右,本人から見て左が上に来るように前を閉じますが,このとき伊達締めまたは腰帯で縛るのが通常です↓
この状態で,背中や脇をピンとさせますが,抜いた衣紋が引っ込まないようにだけ気を付けましょう。
ところで,写真の襦袢は正絹ですが,これ1枚だけでも十分絵になりますね。
その理由は地紋様が入っているところにあり,安っぽい印象にならないためにドール衣装でよく採用されている工夫の1つです(ただし,布の値段はぐっと上がります)。
ドールに着物を着せる方法
続いてメインとなる着物の着付けですが,長襦袢のところでシルエットがある程度決まってしまっていることを忘れてはいけません。
これはつまり,もしも着物を着たときのシルエットがいまいち気に入らないようなときがあれば,その原因は長襦袢にあるかもしれないという意味です。
さて,裾引きの着物でない限り,ここではおはしょりを作る技術が問われます。
裾が足首に来るように,着物を多少上に引っ張り上げた状態で身頃を閉じることになりますが,長襦袢のときと同様,女性は向かって右が上です。
たるんだ状態が作られた状態で,腰紐などで縛りましょう。
このとき結び目が前に来ないようにします。
場合によってはしつけ糸でおはしょりが縫われているものもあり,その場合はその糸をあえて切らない方が楽です。
おはしょりを正し,背中のしわを脇側に寄せたらさらに伊達締めや腰紐を使って縛ります↓
背中側の縫い目が真ん中に来るようにする他,しわがないようにし,衣紋が抜けていることや裾つぼまりになっていること(これは写真だとイマイチですが)を最後にチェックしたら終了です。
なお,文章による説明だけだとイメージが沸きづらいかと思うので,着物店の解説ページもみてみてください↓
ドールに帯を着せる方法
人間用の帯は大きさや形を変えることで,二重太鼓のような形にも整えることができますが,ドール用の帯は形が決まっている場合がほとんどです。
例えばこれはだらり帯的な長いタイプの物ですが,帯締めや帯揚げもすでに取り付けられています↓
今回は短い帯に分類される文庫タイプのものを着せ付けましたが,こちらもマジックテープで簡単に着せ付けることができました。
ここでもシワができていないかチェックしましょう。
続いて帯揚げを締めますが,結んだ後は結び目部分を帯に入れ込みます↓
このとき,胸元のハンカチではないですが,ほどよく出して見せるようにすることは忘れずにいましょう。
最後に帯締めを結んだら完成です。
このときの結わき方は独特の方法が知られているので,以下の手順で行ってください↓
結び方1つできれいに結わけることがわかると,もれなく感動することになると思います。
着物の色や柄について
前章までで着物の着付けは終わりとなりましたが,最後に着物の色や柄について少し述べておきましょう。
着物は季節の先取りをするということで,描かれている草花が咲き誇る少し前に着ることがあります。
春に藤,夏に紫陽花,秋の紅葉,冬の椿などが有名ですね。
その他,桜や菊だったり,リアルな描かれ方をしていない草花だったりは年中OKという話を聞いた方もいるかもしれません(参考)。
とはいえ,ドール用の着物は人間用のものと違ってそこまで種類が選べないことが多いです(職人さんの高齢化問題は,ドール界においても深刻な影響を及ぼしているというのが現実です)。
それに何より,色や柄にこだわりすぎた結果何も着せられなくなってしまうことがあります。
なので,そこまで厳密には考えない方が良いでしょう。
人間の着物に関して,着方をうるさく言われるイメージを持っている方は多いと思います。
ですが,声を大にして言っているのは着物を商売にしている人たちがほとんどで,「それ(手持ちのもの)だとおかしいですよ」などと客に迫っては自社製品を購入させようとするあたりはオカルト教の人たちと変わりありません。
私自身,実は由緒ある呉服屋の子どもとして生まれたのですが,そういったこだわりがうるさく感じられて家を継ぐことを放棄していたりします。
結局のところ,たとえ着物のサイズが大きすぎようが小さすぎようが,オーナーさえ満足できればそれで良いわけです。
今回の記事でも着物の着せ方について色々注意点を述べてきましたが,自分が楽しむことだけは忘れないようにしてください。
まとめ
以上,ドール用着物の着付けについてみてきました。
失われつつある着物文化について理解を深めるためにも,ドール用の着物としては人間の着物にできるだけ近いものを選ぶべきだと思っています。
周りを見渡すと多くのパーツが一体型になった簡易的なものが多く売られていますが,できるだけ別々になっているものを一から着せ付けていくことで学べることは多いです。
衿の処理から始まり,名称や紐の結び方を覚えるのが大変なのは最初だけな上,苦労した分,着物を着せ終えたときの喜びもひとしおだったりします。
ドール用の帯に関しては成型されているものが多いですが,帯締めや帯揚げなどは比較的自由になり,色や素材の違うものを利用することは可能です。
着物そのものの色や柄についても,季節や自分の好みに合わせて大いに楽しんでいきたいものですが,こだわったあまり萎えてしまうようでは問題だとも述べました。
そんなときは,「ドールの世界観は人それぞれだから,現代の基準で考えることもない」などと考え直し,あくまで自分基準で選ぶようにしましょう。
着物を購入できるショップについては別の記事にまとめておきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。